7. 僕がおそれるもの

ボスは今週の土曜日にサックスってものを持っていってライブ演奏だって。僕はボスがそのサックスってのを演奏しているのを見たことがなかったんだけど、つい最近、家の中でボスがサックスの練習をしたんだ。僕は寝室にいて、隣の仕事部屋からいきなり「ブォォォオオオウン!!」ってものすごい唸り声がした。床がビリビリと響いたので、家が崩れ落ちてしまう!って悲鳴をあげてベッドの下に避難した。しばらくして音がやんで、ボスが僕を探しに来たけど、僕はベッドの下にうずくまってじっと動かなかった。
僕が半日もベッドの下から出てこなかったので、その夜にボスは困り顔であやまった。「もうサックスの練習は家でやらないので」ってね。そうじゃないんだ、勇敢なピケ・ヘルナンデスが初めてボスの前であんなにおびえたわけは。大きな怪獣が仕事部屋で怒鳴り散らしているのかと思ったわけ。それとも風が暴れて家の中に入ってきて、家を丸ごと吹き飛ばそうとしてると思ったわけ。何も見えず、大きな音だけ聞こえたら、誰だってそう勘違いすると思う。なのでボスに、そういう時は僕の目の前でやってくれるようにと頼んでおいた。サックスの練習だろうが、ヘビの踊り食いだろうが、僕の目の前でやってれたら驚かないんだって。
ボスは一言「わかった」と言ってソファに一緒に座って、サックスを演奏している映像を僕に見せてくれた。僕はなるほどねと映像を見て、土曜日はブオンと勇ましくがんばってきてとエールを送った。