3. 扉が開く日

 寝室にいた先客の名前はデーヤン・スパラヴァロ。無表情でガッツのないちっこいウサギだ。こいつはいつもケージの中にいて、葉っぱを食べたり水を飲んだり、おやつを食べた後に腹を出してだらしなく寝たりしてる。冬はこいつ専用の暖房がケージの中に入れられて、ずいぶんと良い待遇を受けているようにも見える。ただ、ボスがケージの扉を開けて外に自由に出られるようにしても、いっこうに出てこない。ケージの中でダラダラ過ごすのが好きなんだ。僕のルームメイトと呼ぶにはあまりにもつまらない、退屈なやつだと思ってる。
 だから僕は、デーヤンのケージに入って好き勝手にさせてもらうことにした。葉っぱを二、三本拝借したり、ちょっと一休みしたりね。でも、チョコチョコと動き回るデーヤンを見ているとなんかゾクゾクゾワゾワして、知らぬ間に僕の前脚がデーヤンをパンチする。テイッ!テイッ!テイッ!と三回ほど叩いたところで、ボスの大声が聞こえてジ・エンド。僕はデーヤンのケージから追い出されるってわけ。

 外に出るチャンスがあるのにみすみす逃すなんて、本当に信じられない。僕はいつだって冒険したいし、知らない世界があれば飛び込んでみたい。ボスがいつかそういった機会を与えてくれることを信じてる。だから今は甘えてみたり、高くて可愛らしい、耳障りの良い声で鳴いてみたり、ソファやカーテンでピカピカに爪を研いで、耳の根元の毛をきれいに整えたりしてボスの反応をうかがっている。
 今のところは効果絶大だ。ボスが僕をすっかり信用して、この家の扉という扉が全部開け放たれる日がそのうちくるよ。きっとね。

ピケ・ヘルナンデスの知るかぎり
 1. ある夜のこと 2. パトロール開始
 3. 扉が開く日 4. 夢の中でも遊ぶ
 5. 冗談で一枚 6. 一日の始まり
 7. 僕がおそれるもの 8. 監視されてるっぽい
 9. おやつは永遠10. 窓の外には
11. 歌を教えてあげる12. 嘘やいたずらまみれの、一歳の誕生日
13. 誕生日とエイプリルフール14. 新しい世界へ、ついに進出
15. 空飛ぶピケ・ヘルナンデス16. うさぎの復活劇
17. ピケ・ヘルナンデス入り布団袋18. ピケ・ヘルナンデス監督の活動報告
19. 失踪中のあの子20. 得意技はたくさん
21. またまた復活!22. のびのび
23. のんびり応援24. パトロールと換毛な日々
25. 二十年ぶりの再会26. 二十年ぶりのライブ