2. パトロール開始

 ようやく解放された僕は、さっそく新しい家のパトロールを開始した。にくき二段ケージが置かれていた部屋は、ボスが何か作業をしたり、真剣な顔をして手と頭を動かす特別な場所のようだ。そこを出ると、色んな色の服がぶら下がっている廊下があって、その奥は寝るための部屋。僕のご飯入れとトイレもここにある。前から住んでる変なちっこいウサギもこの部屋にいるけど、こいつの話は長くなるのでまた後日。
 どの部屋の机の上にも、細長かったり四角かったり、よく転がる物がたくさん置いてあったので、前脚でちょいちょいと、全部落としてやった。しばらくしてまた机の上に戻されていたから、また落としてやる。落として、落として、落として、根気強くね。そのうちボスは机の上に物を置かなくなった。

 部屋のパトロールを許されて、新しい名前もつけられた。本当は僕には前の家でつけてもらった「ミルキー」という名前があったんだけど、今のボスは「強くてかっこいい猫になるように」と、ここから遠く離れた知らない国に住む野球選手から思いついたという名前をつけた。ピケ・ヘルナンデス。これが僕の名前。
 前の家はもっともっと大きくて、いつも良いにおいがしていた。実は僕には兄弟が二匹いて、そこで前の飼い主さんと僕たち三兄弟とで暮らしていたんだ。なぜ、三兄弟のうち僕だけがここに来ることになったのかは永遠の謎。
 ボスは言うんだ。「あんたがうちに来てくれてよかった」って。他の二匹に会ったこともないくせに変だよね。他の二匹を知らないくせに。でもボスはことあるごとに言うんだ。「来てくれたのがピケ・ヘルナンデスでよかった」って。