3. 扉が開く日

寝室にいた先客の名前はデーヤン・スパラヴァロ。無表情でガッツのないちっこいウサギだ。こいつはいつもケージの中にいて、葉っぱを食べたり水を飲んだり、おやつを食べた後に腹を出してだらしなく寝たりしてる。冬はこいつ専用の暖房がケージの中に入れられて、ずいぶんと良い待遇を受けているようにも見える。ただ、ボスがケージの扉を開けて外に自由に出られるようにしても、いっこうに出てこない。ケージの中でダラダラ過ごすのが好きなんだ。僕のルームメイトと呼ぶにはあまりにもつまらない、退屈なやつだと思ってる。
だから僕は、デーヤンのケージに入って好き勝手にさせてもらうことにした。葉っぱを二、三本拝借したり、ちょっと一休みしたりね。でも、チョコチョコと動き回るデーヤンを見ているとなんかゾクゾクゾワゾワして、知らぬ間に僕の前脚がデーヤンをパンチする。テイッ!テイッ!テイッ!と三回ほど叩いたところで、ボスの大声が聞こえてジ・エンド。僕はデーヤンのケージから追い出されるってわけ。
外に出るチャンスがあるのにみすみす逃すなんて、本当に信じられない。僕はいつだって冒険したいし、知らない世界があれば飛び込んでみたい。ボスがいつかそういった機会を与えてくれることを信じてる。だから今は甘えてみたり、高くて可愛らしい、耳障りの良い声で鳴いてみたり、ソファやカーテンでピカピカに爪を研いで、耳の根元の毛をきれいに整えたりしてボスの反応をうかがっている。
今のところは効果絶大だ。ボスが僕をすっかり信用して、この家の扉という扉が全部開け放たれる日がそのうちくるよ。きっとね。