11. 歌を教えてあげる

ボスは最近、よく歌を歌ってる。家に帰ってきて軽く鼻歌を歌うこともあるし、仕事部屋にこもって口ずさんでいるのが聞こえてくることもある。サックスを吹くばかりか、これからは歌を作ったり、歌うことにしたんだそうだ。サックスも好きだけど、歌には言葉があるからいいんだって言ってた。人は音に揺られるのはもちろん、言葉に揺られたい時もあるんだって。
「ピケ・ヘルナンデスの声はとてもきれい」と、調子の良い時のボスは僕のことまで褒めてくれる。良い声の持ち主がうらやましいみたいで、僕のことをじっと見てくる。おやつみたいに気軽に声を分けてあげられなくて残念だね。
僕だって時々、歌を歌うこともある。天気や機嫌の良い時は窓の外にいる鳥に聞かせたり、そろそろもう起きなきゃって伸びをしながら、眠気覚ましに小声で歌ったりね。もし頼まれたら、ボスに歌を教えてあげてもいい。鳥をかじりたい情熱の歌、なくした宝物を探しつづける歌、おやつがない日の哀しみ、生まれ故郷を思う時、ほどいてもほどいてもほぐれない糸、思い立って強烈なジャンプ!
盛りだくさんのレパートリーに、これらをピケ・ヘルナンデスが見事に歌いこなすコツ、全部教えてあげたらボスは相当驚くと思うよ。