35. 長生きの回

 ボスは7月もライブにトークショーに大忙しだった。ボスのお父さんの命日月っていうこともあって、毎年夏はなんやかんやで賑やかになるらしい。
 今月は、ボスのお父さんと仲の良かったギタリストの石田長生さんを偲ぶライブ「長生きの回」に出演できて、ボスは大喜びだった。ボスのお父さんばかりか、ボス自身もすごくお世話になったそうで、ステージを盛り上げて、少しでも恩返しができたらという気持ちで出させてもらったとボスは言っていた。
 「石田長生さんの大きさや、楽曲のすごさや、ギターフレーズの素晴らしさなんか、十代二十代の時に気づけなかったことを今更わかるなんてね」とボスは悔しそうだった。昔に気づいていれば、もっともっと良かったのにと。

 それは難しいんじゃないかな?って、僕はボスに伝えたんだ。僕は、今はソファを引っ掻いたり、おもちゃをぶっ壊すのが楽しくてしかたないけど、何年後かにそれを後悔するかもしれない。それに、今は味がわからない大人向けのおやつを、数年後は大好きになっているかもしれない。そんなこと誰だって予想がつかないし、運だって好みだってタイミングだってあるよってね。

 せっかくピケ・ヘルナンデスがアドバイスしたのに、ボスは僕の言うことなんて聞いちゃいない。何か音楽を聴いてふんふんと歌っている。なんだろうね、次のライブの曲かな?


ピケ・ヘルナンデスの知るかぎり
 1. ある夜のこと 2. パトロール開始
 3. 扉が開く日 4. 夢の中でも遊ぶ
 5. 冗談で一枚 6. 一日の始まり
 7. 僕がおそれるもの 8. 監視されてるっぽい
 9. おやつは永遠10. 窓の外には
11. 歌を教えてあげる12. 嘘やいたずらまみれの、一歳の誕生日
13. 誕生日とエイプリルフール14. 新しい世界へ、ついに進出
15. 空飛ぶピケ・ヘルナンデス16. うさぎの復活劇
17. ピケ・ヘルナンデス入り布団袋18. ピケ・ヘルナンデス監督の活動報告
19. 失踪中のあの子20. 得意技はたくさん
21. またまた復活!22. のびのび
23. のんびり応援24. パトロールと換毛な日々
25. 二十年ぶりの再会26. 二十年ぶりのライブ
27. ようやく一息28. 快眠月間
29. ジャマー月間に変更30. 何の音でしょう
31. まちがえないで32. テレビ観戦
33. ついつい手が出てしまう34. 僕がパトロールするわけ
35. 長生きの回36. 隠れマッチョ
37. カスカス声とフルート38. ペットセメタリー
39. あっという間にお盆休み終了40. 夏を取り戻す
41. 出てやるもんか!42. 大雨の日